Pugliese ! Pugliese ! Pugliese ! Vol.1

2020年7月25日、たくさんのタンゴのアーティスト達が
『プグリエーセ!プグリエーセ!プグリエーセ!』
と唱えたに違いありません。
そう、7月25日はオズバルド・プグリエーセがこの世を去った日、そして今年は、マエストロ逝去から25年目という節目でもありました。
音楽でもダンスでも、タンゴが好きなら、必ず出会う音楽家。
そして一度、彼のタンゴを聴くと、誰もが虜になる、天才音楽家(ピアニスト)、そしてオーケストラ・ディレクター。
時代背景により共産党員であった彼は、何度も刑務所に入れられた経験もあるという一面も持っています。

そのマエストロ・プグリエーセには不思議な都市伝説(?)があります。どこかで目にした事があるかもしれませんが、彼は『San Pugliese』(聖プグリエーセ:音楽 家たちの守護神)として聖人のように崇められていて、宗教画の聖人カードのように、彼の肖像画カード(デザイン)が存在します。そして彼の名前を3回唱えると、悪い運を吹き飛ばしてくれる、と言われているのです。

San Pugliese (聖プグリエーセ)

そんな聖プグリエーセ伝説について、アルゼンチンの新聞社 LA NACION が興味深い記事を掲載していたので、こちらでその和訳をご紹介します。
かなり長い記事なので少しづつ。

La Nacion  25 de Julio 2020 掲載
『聖プグリエーセ』音楽家達の守護神がこの世を去ってから25年

運の問題である。コンサートの数分前まで上手く機能しないサウンドシステムが、誰かがOsvaldo Puglieseを呼び出すと、ショーに向けて全ての準備が整う。
レコーディングスタジオでは、技術者がコンピューターファイル名をPuglieseという言葉を入れた名前に変更するまで、アーティストの最近のレコーディングファイルをすべて失うところであった。
……それで、すべてが解決するのだ。

オズバルドという名の不可知な天使、1905年にビシャ・クレスポ地区で生まれ、25年前にこの世を去った(本日、逝去から25年を迎える)。そして偉大な「音楽家達の守護神」となった『聖プグリエーセ』。
異教の聖人、アンチ・ムファ※1(不運を寄せ付けない)、追われた政治家、タンゲーロ、そして独特のシンコペーションを持つティピカ編成オーケストラのディレクター。
皆から愛された。
オズバルド・プグリエーセ は、タンゴの歴史、その伝統、さらにはタンゴの革新的歴史において重要な人物である。
なぜなら、彼は気付かない内に、新世紀に登場した非常に若いタンゴミュージシャンのグループで教えていたのだから。
芸術において、アヴァンギャルド(前衛)は実験的で革命的であるだけでなく、誰かが慎重に糸口を探し出していくものであり、ずっと後に誰かがそれを認識することもあるのだ。

ドン・オズバルド、初めて聴く時には、タンゴにおける古典的な位置付けとして捉えることが出来るが、実は、新世紀のタンゴ世代がそれを見つけ、彼のスタイル、そして彼の ”シュンべアド※2”の力によって、彼らがアイデンティティを感じ、成長を遂げていく様に仕向けたのだ。そしてそこから、独自の道を歩んで行ける様に。
偉大なミュージシャン達からも、彼は高く評価された。彼らはプグリエーセと共に演奏した何年も後に、彼の偉業に価値を見出したのである。

『いつも言うんだけど、何か素晴らしい出来事が自分にあったとしたら、それは、あのオーケストラの一員だった、と言うことだね。
何故かって、あの数年間で、最高に純粋で混じりっ気のない本質を受け取れたんだからね。それこそが、僕を音楽家として形成させたのだから。』

La Nacion に対してバンドネオン奏者のロドルフォ・メデロスはそう説明した。
プグリエーセの生誕100周年の2005年であった。

『オーケストラから外れてしばらく経つまで理解できなかったんだけれど、運よくオズバルドと話す事が出来たんだよ。でなければ、何か借りを作ったままのように感じただろうと思う。
ある日、彼に電話して、家を訪ねたんだ。午後の全部を僕のためにとってくれてね。色んな事について話をしたよ:音楽、人間性、社会について。
取組んでいる事を彼に見せていたその時にね、ちょうど僕はアベジャネーダ・ポピュラーミュージック学校で教え始めてたんだけど、【彼のスタイル】を(僕の取り組みに)見つけたんだよ。とても教育的な午後だったね。
その後、僕のためにタンゴを弾いてくれたよ。
それはとても兄弟的な、もしくは父親的なイメージだった。僕がそう感じたんだから、他の人にとってもそうなんじゃないかな。』(ロドルフォ・メデロス)

きっとそうだろう。彼の父親感もまた、90年代半ばから、聖人、そしてアンチ・ムファとなった理由の一部なのであろう。彼のファンからだけでなく、彼の死後にタンゴと出会った者からも敬意を表されたのだった。
芸術の世界の多くの者から、そして何と警察署長まで。彼は共産党員だったことから、何度も警察署へ連れて行かれたのだが、ある時、その警察所長は彼に謝罪し、その後、部下にこんな事を指示したのだ。

『私はもう行かねばならないからね。どうか頼むよ、マエストロには必要なものをなんでも用意してあげてくれ。』と。

尊敬と賞賛、2001年に流通し始めた肖像画カードだった。
ブエノスアイレス・タンゴフェスティバルでの、シンプルな活動として。(詩的?それとも宗教的?)
あの、『聖プグリエーセ-音楽家の守護神』と書かれた肖像画カード、一本の赤いカーネーションと共に彼の姿が描かれていた。それは、オズバルドが彼の政治的思考により刑務所に入っていたために演奏出来なかったその度に、その花がピアノに置かれていた、という行為を思い起こすために。(その際、オーケストラは演奏していた、ピアノの鍵盤にカーネーションの花を置いて。)

尊敬と賞賛が、見事にまとめられた詩『ドン・オズバルド・プグリエーセに捧ぐ』
ルチョ・シュワルツマンの作品で、1985年にコロン劇場にて行われた、プグリエーセとそのオーケストラが演奏した、あの伝説のコンサートにて、俳優ルイス・ブランドーニが朗読したのである。

<原文>
Hay hombres genuinos que caminan la noche de Buenos Aires. /Hay valientes creando en medio de opresiones. /Hay quienes, guardando ternura, millones de pájaros amantes, esconden fortalezas necesarias. /Y muestran al otro, al semejante, cómo se puede con la vida, cómo se dura con la idea. / Cómo se templa con la lucha./ En este piano se va a sentar un hombre con el único delito del amor / de la verdad impostergable. / Un hombre de rara melodía: insobornable. /Un hombre de barrio y rascacielos. / Un hombre muchas veces de notas entre rejas y fiero carcelero / Un hombre encendido de mañanas, de canto callejero. / En este piano se va a sentar un hombre con el mágico misterio de jugarse entero. /Andador incesante sin el miedo, / aliento sin bostezo, / marcador de esperanzas, / perseguidor de abrazos. / Anda simple, con el adorno de la brisa. / Camina natural, como la lágrima y la risa. / Fecunda cantos, cielos, emociones. /Tiene raíz que no abandona. /Acento raro. de puro de sincero. / Quisieron silenciarlo. No pudieron. / Viene de estirpe inclaudicable. / Dice un tango y lo perdura. / Es el sonido de generaciones. / Tiene la magia desde adentro. / En su dulce sonrisa se descubre “Yumba” pueblerina. / “Mariposa” de colores, fuente cristalina. / Niño siempre vivo. / En este piano se va a sentar un hombre cuyo solo nombre significa / que la idea de luz, coraje, y sentimiento / retorna indestructible con los tiempos. / Respeto, respeto: Es este piano se va a sentar Pugliese, que es como nombrar al pueblo.”

『ドン・オズバルド・プグリエーセに捧ぐ』 ルチョ・シュワルツマン作

ある天才がブエノスアイレスの夜を彷徨い歩く
勇気ある者が抑圧の中、創造する
優しさや何百万もの愛情深い鳥を心にしまい、必要な強さを隠し持つ者が存在する
そして、他の者、とても多くの者達に、どうしたら人生と向き合えるか、どうやってアイデアを持ち続けるか、を示してくれる
戦いの中で、いかにそれを和らげられるか

このピアノに座るのは、唯一、愛の罪を犯した男
延期などは決して出来ない
独特のメロディーの男;賄賂など通用しない
ローカルであり超高層ビルでもある男
鉄格子と厳しい看守に挟まれて幾度も作曲した男
路上の歌で朝燃え上がる男

このピアノに座るのは、人生をかけた魔法の謎を持つ男
恐れを知らず、立ち止まらない歩行人
あくびなどせずに息する
希望のマーカー
抱擁を追い求め
そよ風の飾りと共にいつも歩む
自然体で歩む、それはまるで涙と笑いの様に
歌、空、感情を肥やしに
決して諦めない根を張り
独特のアクセント、それは純粋なまでの誠実さ
彼を黙らせようとしたけれど、誰にも出来なかった
不屈の血統を持つ
タンゴを一曲かけば、それが永遠に続く
世代を超えた音
内側に魔法を備えて
彼の甘い笑顔が、街の『Yumba』を見つけ出す
色んな色の『Mariposa』(蝶々)、クリスタルの噴水
いつまでも子供の心で生きる

このピアノに座る男….
聡明さ、勇気、そして情感の信条を意味し
時代によって壊されることなど無い、その名前。

敬意、敬意を持って:
このピアノに座るのは、我が国を代表しているとも言える、プグリエーセ。


注意)本詩の和訳はあくまでも私の解釈であり、作者の意向を完全に解釈出来ているかどうかはわかりません。何卒、ご理解、ご了承をお願いします。

参考)こちらに、1985年の伝説のコロン劇場コンサートの模様をご紹介します。
以下のビデオの最初の部分で、俳優のルイス・ブランドーニが、上記の詩『ドン・オズバルド・プグリエーセに捧ぐ』を朗読しています。

https://www.youtube.com/watch?v=dsaPJVyWZeU

このビデオで、プグリエーセはこんな風に挨拶しています。
『….誇りを持って、言わせてください。私自身の努力と意思で今日に至りますが、それは1939年から今日まで、共に活動して来た全ての仲間達のお陰なのです。すみませんが、この全ての仲間達に拍手を送ってください…..』
マエストロが聖人とか守護神とか言われるのもわかる気がします。

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<注釈>
※1:アンチ・ムファ
 ムファ = mufa は ルンファルド。ルンファルドってなんやねん?て言うお話はまた後日じっくりするとして、超簡単に言うとアルゼンチンのスラング。なので、このmufaはスラング、普通のスペイン語辞書には残念ながら載っていません。
意味は『不運』『アンラッキー』。あの人は mufa(不運を呼び寄せる人)だから気を付けてね、みたいな使い方をします。なので、このアンチ・ムファ= anti mufa は不運の反対、『不運を跳ね返す』みたいな意味になります。
マエストロ・プグリエーセはanti mufa なので、マエストロアイテムを持っていたり、名前を叫ぶと、運気が上がる訳です。

※2:シュンベアド
 スペイン語では Yumbeado、これはYumba という言葉から来ています。 バンドネオンの音とタンゴオーケストラが出す音が混じって、アクセントの時の音『シュン!』という音から来ているようです。マエストロ・プグリエーセ独特のアクセント音でもありますね。Yumbeadoは、Yumbaという言葉を動詞の過去分詞的に変化させて使っている、いわば造語ですね。
マエストロの代表的なタンゴに『La Yumba』(1946年)という曲があります。この曲を聞くと、Yumba という言葉の語源が理解しやすいかと思いますので、ご紹介。
この映像も1985年のコロン劇場でのマエストロ・プグリエーセとそのオーケストラの演奏。

最高に素敵なマエストロ・プグリエーセに関するLA NACIONの記事の一部、いかがでしたか? この記事はまだまだ続きます。
Pugliese! Pugliese! Pugliese! – Vol.2 をお楽しみに。

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LA NACIONの記事へのリンクはこちらです
https://www.lanacion.com.ar/espectaculos/musica/san-pugliese-nid2397894