ブエノスアイレスは今、冬真っ只中。

気温はそこまで下がらないものの、湿気が多いので、寒い日は寒さが骨身に応えます。

ワクチン接種も少しずつ進み、少し前の厳しい規制の効果も出てきたのか、感染も多少落ち着き始めています。
とはいえ、1日の感染者が4万人近く、死亡者が800人近くまで上っていた時に比べればマシになったと言う意味で、7月31日現在、1日の感染者は13,483人、死亡者は474人とまだまだ気を緩められない状況が続いています。

今、アルゼンチンは冬のバケーション・シーズンで、国内の観光地では、様々な制限はあるものの、こぞって観光客を受け入れています。コロナ禍で最も打撃を受けた業種の一つである観光業者達は、この冬バケーションでの集客をかなり期待しているはず。多少なりともこれまでの大損害を回復出来ると良いのですが・・・。

そして、1〜3月頃の夏のバケーション後に感染者が急増した時のように、冬のバケーションが終わる頃にもまた同じような状況になる可能性もあり、その上、変異株デルタが蔓延し始めていることもあって、バケーション+デルタ株のダブルパンチでえらいことにならないと良いけど・・・と内心、心配しています。

さて、少し前になりますが、6月15日、タンゴ仲間からWhatsAppグループに、『タンゴショーやタンゴレッスンに関する規定が改定されたよ!』というお知らせが届きました。その内容はこちら。

 

最新ニュース!

舞台芸術に関するプロトコルは、タンゴショーなどのダンスショーを許可するように変更されました。
アーティスト間の接触制限を解除します。
このタイプのショーに対して、プロトコルでは特定のカップルや同居カップルで踊ることが可能であるとしています。
一方、ダンススタジオでの活動を規制するプロトコルが更新され、レッスン中必要な場合はカップル間の接触が可能になりました。
特定機関に宣誓書を提示する必要があり、特定のカップルまたは同居カップルであれば、必要な予防策をとりながらクラスに参加できます。

 

そしてその直後、タンゴを含む運動系(スポーツやダンスなど)の活動に関するプロトコルが発表されたことが判明。

上記のお知らせは、そのプロトコル発表を受けてのもの。

タンゴだけに関するプロトコルではありませんが、その中にタンゴレッスンの活動に関わる規定も掲載されています。プロトコル自体は相変わらず長くて、今回発表されたものは全18ページ。その中から抜粋してご紹介します。

とりあえずはプロトコルの目的、適用範囲などから見て行きましょう。

 

タイトル:COVID-19症例の予防と管理のための、公的および私的施設(クラブ、スポーツセンター、ダンススタジオまたは関連施設)における身体活動実施のためのプロトコル

1.目的 このドキュメントの目的は、従業員と参加者に関するCOVID-19の一般的なリスクを防止し、適切に管理するために、公共および民間の施設(クラブ、スポーツセンター、ダンススタジオなど)での身体活動の実施を規制することである。

また、管轄機関が発行した規則に従って、疑わしいケースの発生や感染、感染者との接触などが確認された場合に従うべき措置を講じることが出来るようにするものである。

この文書は、規定に対応するために必要な変更に関わる予算(見積もり)に対応するための推奨事項を構成する。この予算案は疫学的(パンデミック)な状況および人々の健康保護のための重要な特殊性に基づいて拡大または変更される場合がある。

2. 適用範囲

このプロトコルは、公的および私的施設(クラブ、スポーツセンター、ダンススタジオなど)での身体活動の実施によって影響を受ける、個人または従業員、および使用者/参加者/関係業者に適用される。

活動が屋外で行われる場合、「公共の場および公共および民間のスポーツ施設で、接触または用具の共有がなく、屋外でのグループトレーニングを実施するためのプロトコル」または、他に推奨される対策において、将来それを置き換えるもの、の規定に適合させる必要がある。

 

さて、ここで出てくる『クラブ』というのは、地元のクラブ、街のクラブ、のこと。

日本で言うところのディスコ的なクラブではありません。アルゼンチンには「クラブ文化」というものがあります。

地元の人達がスポーツをしたり、文化活動(ミロンガもその一つ!)をしたり、食事をしたりするのが「Club de barrio=地元のクラブ」。地元の人たちが集まる、大切な交流の場所なのです。

アルゼンチンの学校には、日本のような放課後の「部活」という習慣が無いので、子供達もそんなクラブに通って色んなスポーツや習い事をします。地元のクラブは庶民にとって、とても大切な場所なのです。

ただ、そのクラブ文化も、昔に比べると少しづつ敗退し始めて来ているようで、月謝を払うメンバーが減って来て閉鎖になるクラブも。
往年のミロンゲーロ達が『昔はあちこちのクラブにタンゴを踊りに行ったもんだよ』と口を揃えて言うのも、昔は沢山あった地元のクラブも今ではすっかり減ってしまっているから。

もちろん、クラブ自体はあるけれど、ミロンガを開催しなくなった、と言うクラブもあります。

 

例えば、皆さんもよくご存知の『スンデルランド・クラブ』は、クラブ自体は存在しますが、ミロンガをしなくなったパターンです。『シンルンボ』はクラブ自体が改修工事に入りミロンガも無くなりました。

そういえば、『シンルンボ』や『グロリアス・アルヘンティーナス』など、輝かしいミロンガの歴史を持つクラブがワクチン接種会場として名を連ねていました。

ちょっと寄り道してしまいましたが、軌道修正してプロトコルネタに戻ります。 次にご紹介するのは、コロナ禍のアルゼンチンらしい規定。公共交通機関の使用について、と言うもの。

5.1.2. 公共交通機関の使用について

DNUN°814 / APN / 2020の第22条の規定に従い、流通が許可された都市間および管轄区域間の公共旅客輸送サービスの使用は、第11条で指定されている活動を実行するために移動しなければならない人々(※1)の専用とする。同様に、当該法令の第15条および第17条の規定により、雇用主は、バス、電車、および地下鉄の公共旅客輸送サービスを使用せずに従業員の移動を保証しなければならない。

このため、都市および郊外の自動車輸送サービス、タクシー業の許可を持つ車両、レミス(※2)などを契約することが出来る。ただし、許可された車両によって、乗客一人(男性一人または女性一人)を輸送する場合に限る。いずれの場合も、運輸省第107/20号の決議を遵守しなければならない。

 

※1の「第11条で指定されている活動を実行するために移動しなければならない人々」とは、「公的に指定された活動のために移動が必要不可欠な人々」のことを指します。

現在でも、一応法律上、アルゼンチンでは、医療従事者、警察官、トラックの運転手やスーパー従業員などのエッセンシャル・ワーカーや、学校や大学に通う生徒たち、それを送り迎えする父兄、学校の先生など、公的に移動が必要不可欠な人達しか公共交通機関には乗れないことになっています。

一般人がバスや電車に乗る時には、事前にネットで許可を取らなければなりません。
とはいえ、厳しかったのは感染が酷かった1、2ヶ月前で、今ではもう誰でも許可無しで乗っています。

私も、ちょっと前までバスに乗るために毎回許可を取っていましたが、最近はもうズボラしています。
ただ、夜12時以降は、カピタルと郊外を結ぶ橋や高速道路などでは検問していることがあります。

※2の「レミス」、皆さんご存知ですか? REMISと書きます。タクシーではなく、外見は普通の乗用車ですが旅客運輸が出来る車両です。電話やネット、チャットなどで時間指定して予約すると迎えに来てくれます。

実は、黒と黄色のタクシーは、ブエノスアイレス市内(カピタル)のもので、郊外(ブエノスアイレスのプロビンシア)にはあのタクシーはありません。

一応、それぞれの地区にタクシーもありますが(黒X黄ではありません!)、あまり一般的ではなく、自宅近くにあるレミスを呼ぶ事が多いです。

ブエノスアイレス市内で黒X黄色タクシーに乗りプロビンシアまで来た場合、そのタクシーは、カピタルに戻る際、郊外にいる間は管轄外なのでお客さんを拾えません。
なので、たまに、行き先がプロビンシアだと、タクシーの運ちゃんに嫌がられる事もあります。

 

ああ、また寄り道してしまいました。すみません。

 

とにかく、タンゴスタジオ経営者は従業員(先生でも受付係でも)には、バスや電車に乗らずに会場まで来られるように、足を確保しなければならない、と言う事ですね。従業員が遠方から来る場合は特に経費が嵩みますね。
さて、今度はクラス(レッスン)活動がテーマです。

5.2.5.1.

レッスン活動 · 活動は事前予約しなければならならず、最長1時間とする。

  • マシーンや用具は、使用するたびに清掃すること。
  • ペアで踊る練習(タンゴなど)を除いて、常に2メートルの距離を維持すること。
  • ペア練習は、次の条件で実行することが出来る。
  1. 同居カップルまたはダンスカップルのみ練習が許可されている。
  2. 上記の条件は、宣誓書によって宣言されなければならない。
  3. 一切のパートナーチェンジは禁止。
  4. 参加者間の身体的接触がある間は、喋らずに練習すること。
  5. 活動中はいつも鼻、口、顎を覆うマスクを着用すること
  • 激しい運動の実施は避けること。
  • 実行された活動が呼吸数の増加を引き起こす場合、参加者同士の距離は6メートルなければならない。
  • 水分補給のため、各自ボトルを使用すること.
  • 活動が終了した者は速やかに退出すること。
  • 人々が常に敷地内に適切に分散していることを確認すること。
  • フロアマーキングを使用して、各人が設置または使用するエリア/ゾーンを示すこと。(下図参照)

 

特に珍しい内容ではありませんが、これまでは、組んで踊るタンゴレッスンも禁止されていたのが、今回の改定で『特定カップルまたは同居カップルはアブラッソして練習して良い』ことになった、と言うことです。

ちなみに「激しい運動の実施は避けること」「実行された活動が呼吸数の増加を引き起こす場合、参加者同士の距離は6メートルなければならない」とありますが、タンゴを踊ったら確実に呼吸数の増加を引き起こすと思うのですが、『激しい運動』の部類に入るのだろうか?などと、ふと考えてしまいました。

今回ご紹介したプロトコルはタンゴレッスンに関連するものですが、タンゴショーに関しても改定されたようです。

タンゴショーを行うタンゲリアもオープンし始めています。

  • El Viejo Almacén(エル・ビエホ・アルマセン)
  • El Querandí (エル・ケランディ)
  • La Ventana (ラ・ベンターナ)

などはネットで予約可能になっていました。La Esquina Homero Manzi(ラ・エスキーナ・オメロ・マンシー)もタンゴショーの再開を告知していました。
そういえば先日友人がサン・テルモ地区のBar Sur(バル・スール)へ行ってきたよ、と話していました。

特定カップルが踊ることは許可されたようなので、今後少しずつタンゲリアやタンゴ・カフェなどもオープンして行くのでしょう。
もちろん、入場者制限をしたり、テーブル配置に配慮したりと、エンターテイメントやショーに関するプロトコルを守っての営業をしているはずです。まだまだ厳しい状況が続いていますが、各店、なんとか閉店せずに乗り切って欲しいものです。

少しずつではありますが、タンゴのアブラッソがブエノスアイレスに戻りつつあのでしょうか。ただ、ミロンガの開催はまだ先になりそうな気もします。
往年のミロンゲーロ、ミロンゲーラ達はミロンガ開催が待ち切れないご様子。

『ミロンガはいつ始まるんかねえ?』(来週ぐらいに始まると思ってる?)
『もうワクチン二回打ったからミロンが行けるよ!』(行く気満々やん)
『残りの人生短いから、ミロンガ再開に間に合うかどうかわからんわ…』(そんな事言わないで、まだまだ元気でいてよー)
『こないだ思い付いたステップがあってね、早くミロンガで試したいんや!』(絶対試そうね!)

彼らの人生に、もう一度ミロンガが戻って来ますように!!

日本のタンゲーロス、タンゲーラスの皆様、レッスンやミロンガで踊る機会があったら、どうかブエノスアイレスのジジババ・ミロンゲーロス達に想いを寄せながら踊って下さいね。
真冬のブエノスアイレスのタンゴ事情、次回をお楽しみに。

Un beso grande desde Buenos Aires!

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