La Nacionに掲載されたプグリエーセ没後25年を記念した記事も、これで第3回目になります。
今回は、とうとう、プグリエーセの奇跡の真相にグッと迫ります!
これを読み終わった後には、きっと『聖プグリエーセ』カードを持ち歩き、何かにつけてプグリエーセを叫びたくなるはず・・・
では、今回もタンゴの神様、マエストロ・プグリエーセの記事をお楽しみ下さい。
La Nacion 記事 2020年7月25日掲載
『聖プグリエーセ』
音楽家達の守護神がこの世を去ってから25年
幸運を呼ぶ聖人
ガブリエル・ソリアはジャーナリストであり、国立タンゴアカデミーの会長、ブエノスアイレス・タンゴ・フェスティバル&ムンディアルの芸術担当ディレクターである。タンゴ博士とも言えるだろう。
しかし、だからと言って、私たちに彼(プグリエーセ)に関する百科事典的な見解を述べるわけではない。全くその逆である
(以下、ガブリエル・ソリアのインタビュー)
『彼のオーケストラと演奏スタイルにより、国中の人々、そして、彼のオーケストラで踊り「コロンへ!」と叫び、マエストロの揺るぎないイデオロギーと彼の非の打ちどころのない倫理感について知っている人々が、興奮した拍手を送る、ポピュラーな音楽家、それがプグリエーセ。
そんな人々が、彼の姿をカードにし、「聖人」にまつりあげたのですよ。
おそらく、彼のオーケストラが演奏するタンゴの曲、もしくは単に3回、Troesma(Maestro=マエストロ)の名前を唱えると、どこかから助けてくれる、と思っているのでしょう。』
『言葉で説明できる事ではないですね』
とソリアは付け加えた。
『ただただ、悪いものを追い払うために彼の名前を唱えるという日常的な習慣が、このアーティストと彼の信者との関係に深い意味を与えるのでしょう。
だからこそ、彼の没後25年経った今でも、その <タンゴのパワー> は間違いないものなのです。偉大なるマエストロ、その信念による不可知論者達は、今日でも彼のカードを持っていますよ。「聖プグリエーセ!」の不思議な奇跡のようなものなのでしょうか。』
(ガブリエル・ソリア)
幸運を呼ぶためにPuglieseという言葉を3回繰り返す
『いつでもPuglieseを口にしているよ!』
レオン・ヒエコは自身の曲 『Los Salieris de Charly』※1 (チャーリーのサリエリ達)でこのように歌っている。
ロックバンド『Árbol』(アルボル)は、CD「Guau sentencia」の中の曲「Suerte」(幸運)の最後にこんな歌詞を付けている。
「プグリエーセ、プグリエーセ、いつでも僕のそばにいて下さい」
90年代前半にチャーリー・ガルシアのコンサートの準備の際に、ビシャ・クレスポのピアニストを世紀に一度の聖人化に導いた奇跡※2が始まった、という伝説がある。(口伝えのせいで内容の正確さがだんだん失われて行っているのであるが)
そしてそれから数年後、2001年2月下旬に開催されたブエノスアイレス・タンゴ・フェスティバルで、例の聖人カードが登場したのである。
『そんな逸話に加えて、プグリエーセの神秘性、天分、才能が彼を【音楽家達の聖人】に仕立て上げたんだろうね。『Los salieris de Charly 』という曲が公開された後のことだったよ。そのカードについて言えば、そのアイデアはブラジルで思いついたんだ』
ミュージシャンであり文化活動の担当だったカルロス・ビシャルバはこのように語った。
彼はその頃、アルゼンチンとブラジル間の文化交流を促進し、ブエノスアイレス政府の文化部から、ブエノスアイレス・タンゴ・フェスティバルを促進していた。
クリチバへの旅行で、聖エクスペディート(聖人)のカードが貼られた柱を見つけた。そこには印刷会社の電話番号が記されていた。希望者はそのカードを印刷し、さらに守護効果が倍増するように、との意向である。
プグリエーセのカードは2001年のフェスティバルの際に発行された。
『何の目的かも言わずに配布されたんだ。その上、配布を担当した人たちもフェスティバルのユニフォームを着ていたわけではなかったしね。
それこそが目的だったんだよ、広めること、いつか、誰が裏の文章を書き、実はフェスティバルが作ったデザインのカードだとバレたとしてもね。
その後、みんな自分で作り始めたのさ、フィレテアード(ブエノスアイレスの伝統的なデザイン)にしたり、メルカード・リーブレ(物品販売サイト)でも売られてたよ。
プグリエーセの妻・リディアは、このカードの存在を知った時、大笑いし、こんな風に言ってたよ「彼は歴史上唯一の無神論の聖人ね」』
ビシャルバはこのように語った。
『効果ありだよ、間違いないんだ。セルフィーのグループなんかが出来たらいいね。それぞれがカードと一緒に写真を撮ってネットに上げるんだ、みんなにご利益があるようにね。』
カードの画像の裏には次のように書かれている。
聞く耳を持たないあいつら全てから、私たちをお守りください。
国産ニワトリの足で執拗に追いかけて来る奴らが振りかける不幸から、私たちをお救いください。
我らの間に協調性が生まれ、不幸や災難だけが唯一の共同作業にならないように、私たちを啓発してください。
骨まで砕かれることのない情熱に向かって、あなたのミステリーと共に私たちを導いて下さい。
そして、椅子の上のバンドネオンを見ながら、私たちを沈黙の中に置き去りにしないで下さい。
オズバルド・プグリエーセの名のもとに。
その文章の作者については、長年にわたり秘密にされていた。その責任者(作家)は、ミュージシャンで劇作家のアルベルト・ムニョスだった。
『カルロス・ビジャルバの主導のもとに文章を書いたんだ。
彼はカードを作るというアイデア、その必要性を抱えていたんだ。
聖プグリエーセ。
僕の名前を出さないという条件で依頼を受けたんだ。匿名で事が進むようにね。
多くの人が、自分が著者だと主張したよ。それはこのプロジェクトがうまく行っている事示す良い指標だったよ。僕も著作権を主張する人の一人になれるわけだからね。提案者のビシャルバなんて存在しない、とだって言えるわけさ。
そして全て音楽の作り話だって。それが一番いいんだよ。』
このインスピレーション豊かな、劇の魔術師はこうも語っている。
それは、ちょくちょく、パラレルな、夢のような領域で起こるものなのだ、と。
さらに、ムニョスは特別に、この記事のために次のような短い文章を書いてくれた。
カードに記された内容に注意を向けると、その祈りに隠された部分に辿り着くようなものなのだと。
『人が死んだ時、すぐにこの世からいなくなるわけではないと思うんだ。
あの世へ行くのに少し時間がかかるんだよ。ミュージシャン達はちょっと長くこの世に残るし、偉大なアーティスト達は決してこの世からいなくならないんだよ。
ベートーベン、スピネッタ、プグリエーセ。
それぞれの職業にそれぞれの守護天使がいるんだ。
劇の世界もそうだし、音楽には音楽の守護神がね。
だからこの世は守護カードで一杯なんだよ。
騒音や静寂から僕らを守ってくれる聖人達の、ね。
プグリエーセは、聞く耳を持たないアイツらから僕らを守ってくれる聖人なんだ。』
(アルベルト・ムニョス)
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< 注 釈 >
※1: 『Los Salieris de Charly』
(チャーリーのサリエリ達)について
このレオン・ヒエコの曲のタイトルの付け方が面白いのでちょっとご紹介。
アルゼンチンのシンガーソングライターであるレオン・ヒエコの曲。スタジオ・アルバムのファースト・シングル『魂のメッセージ』に収録されている。
1992年に発表され、ダニエル・ゴールドバーグによりプロデュースされた。チャーリー・ガルシアへ捧げた曲である。
この曲のタイトルは、歴史的とも言える、イタリア人作曲家アントニオ・サリエリのずるい考えを暗示して付けられている。そう、サリエリはウォルフガング・アマデウス・モーツアルトの曲を盗んだのである。
このような観点から、レオン・ヒエコは、チャーリー・ガルシアに影響を受けたアーティストはみんな、何らかの方法でチャーリーの曲を盗用している、という理論を打ち出し、この曲のタイトルを付けたのである。
出典:Wikipedia Los Salieris de Charly
参考)
アルゼンチンの国民的歌手・レオン・ヒエコの曲『Los Salieris de Charly』の映像はこちら。 04:27で「Siempre mencionamos a Pugliese! 」(いつもプグリエーセを口にしてるよ!)と歌っています。
こちらはレオン・ヒエコの『Alas de Tango』(タンゴ の翼)という曲。タイトルにTangoとあり、歌詞もタンゴのことを歌っていますが、曲調はタンゴではありません。とても素敵な曲なので、是非聞いてみて下さい。
※2:チャーリー・ガルシアのコンサートでのプグリエーセの奇跡について
ここでは文化省が掲載した記事『なぜプグリエーセは幸運を呼ぶの?』をご紹介。
プグリエーセが幸運を呼ぶ、と思われるようになった理由が分かりやすく、具体的に書かれています。実はやっとここで、プグリエーセの奇跡の詳細が明らかに・・・。
『なぜプグリエーセは幸運を呼ぶの?』
『プグリエーセ、プグリエーセ、プグリエーセ!』
彼の生誕にあたり、タンゴのマエストロを讃え、幸運を寄せるために彼を呼び出すという神話がどのように生まれたのかをお話ししよう。
“Suerte”(幸運を!)、“merd”(糞)、“éxitos” (盛況を!)
または
“Pugliese, Pugliese, Pugliese”
(これらは全て、幸運を呼ぶ、物事がうまく行くように願うときにかける言葉)
才能に溢れ、輝かしい音楽的キャリアを持つオズバルド・プグリエーセ。彼は最も著名なタンゴアーティストの一人となった。
彼独特の音楽スタイルは世界中のミュージシャンやタンゲーロスにインスピーレーションを与え続けている。
しかし、没後20年以上がたった今でも、アンチ・ムファやアンチ・シェタ(不運・不幸から守ってくれる)を願って彼は呼び出されるのである。
チャーリー・ガルシアのコンサートで、技術的な問題が立て続けに起こり、コンサートに遅れが出たそうだ。
音響設備がうまく機能しなかったのだ。誰かが、マエストロ・プグリエーセのCDで音響チェックをしてみるまでは・・・。
すると全てが順調に進み始め、チャーリーはコンサートを無事開催できたのである。それ以来、マエストロを呼び出すと幸運が訪れるという神話が生まれたのである。
コンサートやプレゼンでは、停電、アンプの故障、楽器の紛失、その他、様々な問題が生じるのであるが、神秘のプグリエーセはいつでもそこにいてくれるようだ。
だからこそ、楽屋の隅っこにプグリエーセの写真を貼るアーティスト達は少なくない。彼の聖人カードやその裏に書かれた聖なる言葉まで存在するのだから。
文化省の記事へのリンクはこちら
https://www.cultura.gob.ar/por-que-pugliese-trae-suerte_6857/
参考)こちらはアルゼンチンの国民的ロックスター、チャーリー・ガルシアの映像。プグリエーセのお陰で無事コンサートを開催する事が出来たことをきっかけに、プグリエーセの伝説・奇跡・幸運・御利益などのいわれの元を作ったのがチャーリー。1995年なのでかなり若い頃。なかなか素敵な曲なので良かったら聞いてみて下さい。アルゼンチン・ロックもいいですよー。
曲名『Reso Por Vos』(君のために祈るよ)
あとがき
聖Pugliese調査、続行中!
皆さんの一番好きなプグリエーセ・オーケストラ演奏のインスト曲(歌なし)を教えてください!一番、聴きたくなる、踊りたくなる、口ずさみたくなる、演奏したくなる曲はどれですか? その曲を選んだ理由も教えて下さいね。
この投稿の一番下にコメント欄がありますので回答はそちらへ!
もちろん、Rikaへ直接回答頂いてもOKです。
【Pugliese! Pugliese! Pugliese!】連載の中で結果報告します。
今回の投稿、少々長かったのですが、プグリエーセの奇跡、そして聖プグリエーセカードが出回っている真相の詳細が判明、スッキリして頂けましたか?
今回登場したアーティストは、アルゼンチンを代表する国民的ロック歌手の二人。プグリエーセが聖人として崇められるようになったきっかけが、タンゴではなくロック歌手チャーリー・ガルシアだった、というのも面白いですね。そして、レオン・ヒエコが、チャーリーに敬意を表して作った曲の中で、歌詞に「プグリエーセ」を盛り込んでいるのも非常に興味深い話しです。
La Nacion の聖プグリエーセの記事、実はまだ終わりません。
引き続き、Pugliese! Pugliese! Pugliese! – Vol.4 もお楽しみに!
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LA NACIONの記事へのリンクはこちらです
https://www.lanacion.com.ar/espectaculos/musica/san-pugliese-nid2397894