”タンゴ”と一口に言っても、人によってイメージするものは様々。
ステージショーのタンゴ/ミロンガでのタンゴ、踊りとしてのタンゴ/音楽としてのタンゴ、また時代によっても色々なスタイルがあります。面白いのは、それぞれのフィールドによって大事にするものが微妙に違ったりして、あっちの庭で”こうじゃなきゃいけない”ものが、そのお隣ではそうでもなく、別の解釈があったりします。
おそらくこのサイトに辿り着かれた方は、踊られる方が多いのかなと思うので、今日はミュージシャン目線での、あまりミロンガではかからない、音楽として楽しむ素晴らしいタンゴ(いーーーっぱいあるんですよ!!!)の世界をぜひご紹介したいなと思っています♪
さて、何から行こうかなと考えていて、たとえば・・・
ルベン・フアレスの素晴らしい録音はCDに収められていないところにあるとか、聴くと必ずその部分だけを30回はリピートして聴いてしまう、プグリエーセのエマンシパシオン(これはミロンガでも掛かりますね)のバンドネオニスタ、オスバルド・ルジェーロのたった一小節のソロがいかに素晴らしいか、とか、自分の趣味を熱く語ってしまうとしょっぱなから引かれると思うので、もうちょっと自分が冷静になれるものから紹介していきたいと思います。笑
ということで。
ミロンガでは耳にしなくても、ご存知の方も多くいらっしゃるかと思います。タンゴミュージシャンにとっては神様的存在、ピアニスタ、オラシオ・サルガン。
1916年にブエノスアイレスで生まれ、幼少時代からお母さんにコンサートに連れて行かれるなど音楽に親しみ、14歳からプロ活動を始めたのだそうです。教会のオルガン奏者、ラジオの専属ピアノスタなどを経てロベルト・フィルポ楽団、ミゲル・カロー楽団などへも参加、自身の楽団も立ち上げます。
そして、1958年、42歳でウバルド・デ・リオというギタリストとのデュオ活動を始めます。ピアノとエレキギターのデュオです。説明するより、、ひとまず聴いてみてくださいっ!
当時タンゴで使われていたギターは、殆どがクリオージョ(クラシックギター)であり、エレキギターがタンゴに使われるようになったのは、ピアソラの5重奏のサウンドを追いかけるバンドが増えるようになってから。今でも比較すると少ない方です。
デ・リオはそんな数少ない”タンゴエレキギター奏者”を代表する存在で、このデュオは唯一無二の音を作り上げることに成功しました。
そしてその一年後に、このデュオのアイデアをキンテートに広げた”キンテート・レアル”のデビュー公演を果たします。演奏動画がyoutube上になく残念なのですが、この音源↓はぜひ、ぜひ聴いて頂きたい!!
冒頭開始5秒で興奮して、ついウハ!とか声が出てしまって、気付いたらずっとニヤニヤしながら聴いている、という曲です。(バスの中など公共の場で聴くときには要注意です。。)
キンテート・レアルのメンバーであった、タンゴヴァイオリンのレジェンド的存在、エンリケ・マリオ・フランチーニ作曲の、ヴァイオリンの名人芸がいかんなく発揮されるタンゴ ”秋のテーマ”。
はあ・・なんてエレガントなんでしょうか・・・。
ちなみに、この4拍目の裏から引っかかるエレキギターとコントラバス(とたまにバンドネオン)の独特の、下からえぐられるようなリズムは、通称”ウンパ・ウンパ”というリズムで、このキンテート・レアルの代名詞であるリズムです。あーーーかっこいいラウレンス!!(あ、すいません、心の声が・・・)
そしてもうひとつ。キンテート・レアルは3度の来日公演を行ったのですが、1969年の公演はライブ録音され、CDに残されています。そのうちの一曲、おなじみフェリシア。この動画、来日時のオフショットがたくさん収められていますのでそちらも併せてお楽しみください。(オネーチャンたちとの写真多めですが笑)
そして、サルガンの名盤はデュオ、キンテートだけではありません。こちらもすばらしいのです、ピアソラの5重奏のピアニスタを務めたジャズピアニスタ、ダンテ・アミカレリとのピアノデュオ。
この音源はタンゴではなく、サルガンの作曲したLitoraleña(リトラル地方のフォルクローレ音楽)。1970,71年に続けて録音されたこのデュオの2枚のCDには、クラシック音楽、ジャズ、ブラジル音楽、タンゴ、フォルクローレと幅広いジャンルの作品が並んでいます。うっとり。
他にも紹介したい録音はたくさんあるのですが、、最後に1972年8月のコロン劇場での、サルガン率いる超豪華オルケスタの動画をどうぞ!(音質は悪いのですが、とっても貴重なアーカイブです。この時代に、居合わせたかったと何度願ったことか・・・)歌手はロベルト・ゴジェネチェ、エドムンド・リベロ。ちなみに1stバンドネオンはレオポルド・フェデリコ。
ちなみに、キンテート・レアルはメンバーチェンジをしながら今でも活動が続いていて、86歳で息子のセサル・サルガンに”キンテート・レアルのピアニスタ”の席を正式に譲りました。
また、2010年頃~2014年までのサルガン親子を追いかけたドキュメンタリー映画”Salgan y Salgan”が2014年に公開され、話題を集めました。私もブエノスアイレスと日本とで見たのですが、何度でも号泣してしまう素晴らしいドキュメンタリーです。おすすめです。
最後までピアノを弾き続け、2016年、ブエノスアイレスで死去。享年100歳。
オラシオ・サルガン。沢山の素晴らしい作品を残し、未だに私たちの心の中に生き続け、愛され続けているマエストロの一人です。