こちらブエノスアイレスではコロナウィルス被害による隔離生活も約5ヶ月。3月に隔離が始まった頃は2週間の外出禁止でも『え〜2週間も〜』とか言ってましたが、今となっては考えが甘かった、と苦笑い。隔離期間で世界記録を出している(らしい)アルゼンチン、この隔離にもいつか終わりが来るのでしょうが、完全に疲弊したアルゼンチン経済、コロナの後は経済危機がやって来るぞ(すでに来てます)と経済学者達が毎日ニュースで熱弁しています。そしてこのコロナによる経済危機は、我らが愛するタンゴの世界にも影を落としています。

Facebookに投稿される様々なタンゴニュース、それが8月に入ってから少し”ざわめき” 始めました。私は外からそれを眺めているだけですが、アルゼンチンの国民性とも言えるのでしょうか、不満をしっかりと声や文書に表すので、有難いことに『へえ〜そういう事で怒ってるんやね〜』と不満の追跡もしやすいわけです。
そこで、ここ最近のブエノスアイレスのタンゴ事情を、最近投稿された記事を引用してご紹介しようと思います。

ご紹介する記事は3つ。
1) 署名運動
2) デモ活動 #Tangazo
3) タンゴフェスティバルに関するジャーナル記事

どれも、私なりに和訳した全文を掲載します。出来るだけ私のフィルターを通す事なく皆さんに現状を知って頂き、その上で自分なりの意見を持って頂けたら良いかなと思います。
一回の投稿で読んで頂くことで、今のタンゴ界の “ざわめき” が伝わりやすいと思います。少し長くなりますがご了承下さい。

1) 8月7日:署名運動

8月8日の日曜日、友達のダンサーからメッセージが1通入りました。開いてみるとどうやら署名運動を促すもの。文書の字が小さすぎて読むのが本当に大変でした。
こちらがその抗議文書。

以下、8月7日付け、抗議文書の内容です
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El gobierno de CABA maltrata al tango
ブエノスアイレス市はタンゴを虐待している!

ブエノスアイレス市政によると、BAタンゴダンス・フェスティバル&世界選手権は、国際的にも大変重要なタンゴの集会です。
しかしこのような壮大な定義は、タンゴダンス関係者に対する政府の扱いと見合っていません

2週間前までB Aタンゴフェスティバル側は、今年はイベントを開催しないことを明らかにしていました。しかし8月3日、ブエノスアイレス・フェスティバル側は、何人かの関係者に、バーチャルで即席のイベントへの参加を各アーティストへ依頼するための呼びかけをしました。開催までたったの20日間で、ギャラの提示も無しにです。

再び私たちは、ブエノスアイレス市政に無視され、締め出されたように感じます。私たちの経歴とダンス・フェスティバル&世界選手権への参加のつじつまを合わせるためだけに召集されたのです。

歴史的に見ても、タンゴダンスにふさわしいリスペクトや地位が与えられていません。世界中から何千人もの人々を呼び寄せ、街に大きな経済効果を生み出している大切な分野であるのにも関わらずです。

タンゴとその巨匠達に敬意を表する最善の方法、それは、その価値を何十年にも渡り維持・継続している者達をサポートすることなのです。無報酬での活動を依頼するというのは、現在の深刻な状況を考えると、賛辞よりも侮辱に近い行為です。

このジャンルの代表として、私たちは文化遺産を守り、この分野の成長を推進する政策を発展させることを求めます。

タンゴは、我々国民のアイデンティティとして、それにふさわしい地位が与えられるべきです。それはタンゴ関係者だけでなく、アルゼンチンの人々にとっての義務でもあると思われます。国際的に重要なイベントを開催する権限を持ち続けようとするなら、なおさらです。

上記の理由により、フェスティバル側の提案を受け入れることは出来ません。

ブエノスアイレス市政が、ユネスコの無形文化遺産に指定されている我々の文化への多大な貢献を尊重する事を求めます。

ブエノスアイレス市タンゴダンス審議会
2020年8月7日
ブエノスアイレスにて

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届いたメッセージには、この文書と共に、オンライン署名運動用の記入シートが付いていました。ブエノスアイレス市がタンゴという文化を尊重してくれる事を強く願っているのですぐに署名しました。(外国人が署名したところでどれだけの効力があるのかは分かりませんが・・・)

2) 812日:デモ活動 #Tangazo

8月12日、アルゼンチン時間の18時、#Tangazo というタンゴのデモ活動が行われました。と言っても、それぞれが自宅から、運転中の車から、道を歩きながら・・・という、自宅隔離を尊重した形で。要はこの日の18時に、みんなで一曲好きなタンゴを大音量で流して、ブエノスアイレス市政に聞かせよう!というものです。
その日は朝から夕方6時まで、タンゴ関係者の間でこのポスターが投稿、シェアされ続けました。

上記1)でご紹介した署名運動の内容からも明らかなように、ブエノスアイレス市の、タンゴそしてタンゴ関係者(タンゴ労働者)に対する扱いが悪ことに対する抗議のデモ活動です。
以下、上記ポスターと一緒に投稿された文章です。

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ブエノスアイレス市タンゴダンス審議会タンゴ・ナショナル・ネットワークPlaTEA は #Tangazoを応援します

タンゴは、これまで長らくの間無視されている中、その声を聞いてもらう必要があります。
政府は一体どこにいるのでしょうか?
タンゴを一曲、大音量で流しましょう。
自宅から、バルコニーから、窓から。
タンゴがかつてないほど生き生きと、今日(こんにち)も存在しているのだということを聞かせるために。

かつてプグリエーセがこう言ったように。
『タンゴは庶民のもの、そうでなければ何の意味もないんだよ』

全てのタンゴ関係者の皆さんに参加して頂きたいのです。
タンゴを生業とする人、協会、団体、そしてタンゴを愛し、タンゴを支援する方々、皆さんにです。

ネット上で起こる討論やお喋り、議論がきっかけで、このような困難な状況に置かれた同業者たちに対して、協力・サポートするグループでもある、ミュージシャン、ミロンガ、ダンサーの権利を守る様々な組織・団体から、自然な流れで、タンゴコミュニティの全ての方々へ呼びかけるという、今回の活動が提案されました。
我々の声を届け、世界中のタンゴ関係者一人一人が置かれた状況について、透明性を求めるためです。
ユネスコに指定された世界無形文化遺産である、我々のタンゴをサポートし守ることを目的として。

#Tangazoは、タンゴ愛好者一人一人の声が届くように、大音量で、タンゴを一曲かけるか、一曲演奏することを提案します。
身近な場所から、タンゴコミュニティが直面しているこの危機的な状況に対して、政府の注意を喚起するために。
これまで以上に、緊急のサポートや、この危機に立ち向かい克服するための具体的な対策と現実的な解決策が必要とされているのです。

#Tangazoは、どのような人、団体、グループでも参加でき、有効利用できます。
この必要性や主張を明らかにしたい、又は、タンゴを愛し、今回の自主活動の場を利用したい、という意思があれば良いのです。
同じ日の、同じ時間に、みんなで一斉にタンゴを一曲響かせるという意思のもとに。

これは、文化の開発や管理を担当する全ての政府機関に我々の声を届ける一つの方法です。声を聞き入れてもらう必要があり、緊急・不可欠なことなのです。
タンゴ関連の全ての業種の支援を目的とした、何らかの解決策について考え始めてもらうために。

ダンサー、ミュージシャン、オーガナイザー、DJ、ウエイター、画家、メイクアップアーティスト、衣装担当、コレオグラファー、写真家、歌手、作家、デザイナー、靴職人、受付担当者、その他様々な業種

一緒にこの事態を切り抜けましょう。
今こそ、みんなで団結すべき時なのです!

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もちろん、私もこの活動に張り切って参加しました。オベリスコに国旗を掲げて行く必要がないので気軽に参加出来ました。
自宅の窓を開けて18時きっちりに私が流した Tangazo(偉大なタンゴ曲)は・・・こちらです!

興味無いかもしれませんが一応ご報告。ついでにマエストロのこの曲で一息入れてください。

3) 8月22日:タンゴフェスティバル&世界選手権をめぐる論争

署名運動やらデモ活動やらに気を取られているうちに、オンライン・ジャーナルPagina/12 に、急遽オンラインで開催されることになったタンゴフェスティバル&世界選手権2020 をめぐる記事が上がり、話題に登りました。
主催側からの招聘を断ったアーティスト達のインタビューが掲載されています。

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オンライン・ジャーナルPagina/12  2020年8月22日の記事
ブエノスアイレス市への関係者からの抗議が続く

タンゴ・フェスティバル&世界選手権からの降板

バーチャルでのタンゴ・フェスティバルとタンゴ世界選手権の発表は、関係者の抗議を和らげるだけではなく、さらに深刻化してしまった。多くのアーティストが今回のイベントへの招聘を受け入れた矢先、先週行われた大規模なオンライン集会の後、他の多くのアーティストが参加を取りやめたのである主催者にとっては問題がまた一つ増えた、と言う感じであろう。というのも、参加を取り止めた人達は、オープニングに参加する女性歌手や女性グループがほとんどで、まさに、女性を前面に押し出す企画だったのである。

マリサ・バスケス、カリーナ・ベオルレギ、クラウディア・レビー、ラ・ランティフサなどの名前は、ブエノスアイレス市主催のフェスティバル参加者として発表されてはいるものの、もう参加者ではなくなったのだ。

参加拒否や批判は、以前の世界チャンピオンや過去のコンペ審査員から、様々なキャリアのミュージシャン、ミロンガ界の巨匠達、フェミニストやミュージシャンのグループなど、関係者全体に広がっている。

フェスティバル・プレスによると「方針に多少の変更」があったことを認めているが、なんとか問題を最小限に抑えようとしているようだ。
「どんなフェスティバルでも、開催前の多少の変更はつきもの」と断言する。

アーティストによって、非常に異なった見解を持っているようだ。
ブエノスアイレス市へ宛てた公開文書の中で、ダンサーのカルロス・コペロはこのように熱弁している。

「パンデミック以前でも、フェスティバルは、招聘アーティストへの扱いが酷いことで有名だったのです。支払いが何ヶ月も遅れたり、フェスティバルが終わったらもう忘れ去ったりと。そして今、Covid下でのリスペクトの無さは、不器用なやり口と無礼さで、明白になりました。」

彼のダンサー仲間であるアウロラ・ルビスは、タンゴ界で名声のあるダンサーであり、かつての世界選手権での様々な場面での審査員も務めている。彼女はPágina/12 に、今年は公式発表の前に招待を拒否したと伝えている。
「他の人達と同じで、参加は断ったわ。経済的にも、芸術面、そしてオーガナイズの面でも、とてもいい加減なのよ」と語る。
「ダンススタジオが閉鎖されててお稽古も何も出来ないのに、偽ライブのために、コレオを録画して送れるわけがないわ。」
ルビスは、関係者間の最初の抗議の後、公式案に変更があったことを説明している。主に、広告収入から多少のギャラを出す、と言うものである。
公式発表に対して、ルビスはコンペの方法について非常に批判的である。
特に「パートナーと踊れないダンサー」がいる可能性がある事、自宅で踊ったり撮影するための適切なスペースがない多くのカップルにとっての困難な状況に言及している。「コンペに参加する者の立場を考慮していないわ」と指摘する。
「私達がどんな状況にあるのか、ミュージシャン、歌手、ダンサー、ミロンガの主催者なども含めて、タンゴ関係者達が何を必要としているのか、なんて決して尋ねて来なかったわ。」

2012年のサロンタンゴの世界チャンピオンであるファクンド・デ・ラ・クルスも、フェスティバルのウェブサイトで「証言をする」というギャラ無しの招待を断った。彼の場合、ギャラの問題ではない、と我々に説明している。
「タンゴ関係者が直面している大変な状況を分かってもらうために協力したいからなんだよ。招待を受ける事でコミュニティに利益になるとは思えないよ。」
とこのダンサーは言う。
「自分の人生に直接関わる人達の方が、フェスティバルや政府よりも大切だよ。いくらチャンピオンになったとはいえね。」

当初は招待を受け入れたにも関わらず、参加を辞退した人もいる。

これは、イベントに参加するためのビデオをすでに撮影していたタンゴ・フェミニスト活動グループの証言。
「私達のジャンルのアーティスト達がこの5か月間経験してきた、これ以上続けば生活するのも難しくなるような緊急事態で、タンゴ・コミュニティが明らかにした不快感を感じ始めて、不参加を決めたの」とDJのスサナ・アギラルは説明している。
「その上、2019年のイベント以降、完結していない協議事項があるの。同年にステージ部門の準決勝で発生した差別的暴力行為が発生したことで、フェスティバルと世界選手権にまたがる差別的視点に関する規制に共同で取り組むという内容よ。」
アギラルは、このような内容やタンゴに新たな表現方法を取り入れることに対しては進歩を認め、その上で「やるべきことはまだまだたくさんある」と述べている。

他の分野では、タンゴ労働者連邦議会(AFTT)が主催するバーチャル会議は分断してしまったようだ。全国の分野別グループが参加した会議である。
その会議が決定打だった。
例えば、多くの者が不安定な(そして幸運にも見捨てられた)状況を押し付けられたり。それは、ブエノスアイレスでの選手権の前段階として機能する、各地域の支部をまとめる人々の多くが経験した状況である。そして多くの場合、驚くほど広い分野からの参加者と、ほとんど無関係なグループとの初対面であった。

「最初、私達がフェスティバルへの参加を受けたのは、他のグループの多くの仲間達の現実的な状況を知らなかったからなの。」
 La Rantifusaの歌手、ナタリア・マルティネスは語る。
「土曜日に、何が起こっているのかを十分に聞けて、そんな条件でフェスティバルに参加することが不愉快に感じたの。様々なグループの主張が組織的に無視されていて、そんな不正規な方法で招聘されているフェスティバルに参加するということがね。」
マルティネスや他のアーティストにとっては
「このフェスティバルは、強い抗議の声に蓋をしに来る」ものであるらしい。

ピアニストで作曲家のクラウディア・レビーは、フェスティバルからの直接的な招聘では無く、ある演奏者仲間から招かれた。
「始めは参加することにしてたの、でも友達を手伝う事と、この状況を改善するためのグループとしての活動の間で板挟みになったわ。」と認識している。それと同時に、演奏家仲間は参加することに対して意味のある議論を持ってたの、例えば、女性が参加すること、降板しないことが大切なんだって言ってたわ。その上、私の曲を演奏することになっていて、フェスティバルのオープニングに、女性に対する暴力を歌ったタンゴを世界中に聴いてもらえるのは素晴らしい事だって。」
最終的に、レビーはプログラムから降板した。彼女の友達も。

ダンサーのルビスも、このピアニストも、技術的な点に反対している。
「ブエノスアイレス市ではストリーミング放送が許可されているのに、どうして、自宅のマイクで録音する必要があるの?ウシーナ・デル・アルテやアルべアール劇場を使えるというのに。世界的にも重要なフェスティバルで、ブエノスアイレス市が持っている技術があるにも関わらず、街のカルチャーセンター以下のクオリティーで出演しなければならないていうの?」

あの最初の大きなオンライン集会では、非常に重要な3つのポイントをまとめたの」とマルティネスは説明する。
「団体として開催組織の一部になるため、権限者との聴取会を要求するのよ。このオンライン集会が「歴史的」であったということは、あの日の環境においてのみんなの同意事項なのよ。タンゴを生業とする者が全員揃ったことなんてこれまでに無かったわ、Zoomで300人が参加、それを外から見ている人が7000人よ。」と語る。

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Pagina/12の記事へのリンクはこちら

https://www.pagina12.com.ar/286650-bajas-en-el-festival-y-el-mundial-de-tango?fbclid=IwAR1LeZsE1j9iOj_R68d-5FAch9M2UcQ-uIpvDz4l30ML2J1C2D_4eyBDU94

ブエノスアイレス・タンゴ・フェスティバル&世界選手権2020(オンライン開催) サイトはこちらから!

https://www.buenosaires.gob.ar/cultura/festivales-de-buenos-aires/tango-ba/convocatorias

ブエノスアイレスで毎年行われるこの一大イベント、参加拒否や降板者が出てしまったりと、この街のタンゴが心を一つに出来ず、正直とても残念な状況です。以前からの不満が募って来ている上に、今回のコロナ被害による経済的な打撃が火に油を注いでしまったのでしょう。タンゴを生業とする全ての者にとって、今、大変困難な状況なのです。
ブエノスアイレスのタンゴは世界中のタンゲーロ達に夢と希望を与えるものであって欲しいと思います。論争はあるものの、イベントは開催される訳なので、参加者が幸せになる5日間であって欲しいと心から願います。そして、このような抗議活動の声が、いつか、タンゴの生まれた街ブエノスアイレスの市政に届く事を強く願います。この国の政策を変えるのは至難の技かと思いますが、希望は捨てずにいたいと思います。

私達にとびきりの楽しみや喜び、生き甲斐をもたらしてくれるタンゴなだけに、目を背けたくなる事実ではありますが、実情を知り、自分なりに考え、必要なら行動を起こすこともまた、タンゴを愛する者として大切なことなのではないかと思っています。

長い投稿を最後までお読みくださりありがとうございます。
タンゴ論争はまだまだ続きそうな予感。また機会があれば続編で。

あとがき

コロナ被害で閉鎖の危機にあるブエノスアイレスの全てのミロンガを支援するクラウド・ファンディング・プロジェクト
【Buenos Aires MILONGAS AID】(ブエノスアイレス・ミロンガ・エイド)
を立ち上げました。
本サイトのディレクター AKANEさん、記者のNATSUKIさんもプロジェクトチームの一員として協力頂いています。
プロジェクトへのリンクはこちらです。是非覗いてみてください!
一緒にブエノスアイレスのミロンガをサポートしましょう❤︎

https://motion-gallery.net/projects/supportbamilongas

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